( ゚д゚ ) 空欄の意味を考える、きんgです。
秘め事や謎を保持することは、退屈を最小限に抑える知恵だ。その考え方に半分は同意するが、もう半分は同情する。時には夫婦がそれぞれ何の仕事をしているのかも知らないことなんぞ、多数とありうるのだろうし、ましてや互いの性癖などあまり知りもせずに結婚してしまう事実は、溢れる地脈の如くだ。
昨日エッチをした女性は、サイレンの音を聴くととても興奮して、性的欲求を満たそうと訴えてくる。そんな事実も最近知った。その音が大きければ大きいほど、ようは近ければ近いほど高まることがそれとなくわかった。
そんな言い方をしているが、確かこの女性は私の嫁だ。どんな仕事を日中しているのか? それは自分にとってあまり重要なことでは無いのだが、それでも知っておきたい気持ちはある。何故、自分の子供を殺害するのかは知りえないが、この女性が何をしているのかを知ろうと考えている間は、まだ興味が少なからずあるのだろうと安心する。
それにしても知らないことが多すぎる。誕生日がいつなのか、実家はどこにあるのか、両親はどういう人間なのか、普通当たり前に知っているのだろう、その人間の基本情報が私たちには欠けている。互いにそういった、普通の人間は当たり前に抑えているはずの情報が欠けている。きっとそれが無くともどうってことないと二人とも考えているのだからしょうがない。
生活のパートナー、性欲を満たすパートナー、そう割り切ってしまえばシンプルだが、そう割り切ってしまうと多分に不安な気持ちも大きくなる。存在価値がなんであろうと構わないが、一緒にいる理由を箇条書きするとそれは少なすぎるように思えて不安になる。
インターネットの検索で必要な情報を集める。図書館の活字を読んで探究心を強める。知り合いの心理学者に嫁の性格を伝えてみる。
共通すること、それは自虐的な破壊願望であると知った。嫁という名の女性はどうやら破壊を望んでいるらしい。
何をしているかわからない帰宅した嫁を、無言で監視してみた。よく考えればこうやって長時間彼女を見ていることは久しい気もする。そんな私の不審に気づいているようだが、特に突き詰めてくることも無く、そこには自分以外の誰もいないかのような態度を取っている。
破壊願望。そんな様相は全く無いのだが、三つの異なる事象から、共通の回答が得られると、さすがにその信憑さを信じざるを得ない気持ちになっている。それは物なのか、人なのか、それ以外の無形物に対してなのか。
「なぁ、何か壊したいのか?」
無意識に想いが言葉に変換されてしまった。
「……」
「ごめん、意味不明な質問で」
「わたしはあなたのそういうところが好きなのよ」
「ん」
今思えば、重要な意思表示を私は聞き逃した。到底後になって、それに気づいた。
逮捕された男に殴られた良い人は、二日後の朝刊で白黒写真になっている。日本代表がブリッツボールで優勝した記事と比較すれば、それは27分の1くらいの面積だったが、その記事から目が離れなくなった。嫁が台所の方で倒れた音を聞くまでの間。
智美は、再び頂上まで上ってきた。振り返れば、体内にはこんなにも血が詰まっているのかと感心できた。頂上には尻尾と体のバランスが悪い白生地の生物がいた。それはそれは数えることを放棄してしまう途方にくれる数だった。
「あの人、また悪いことするよ」
緊急用のストレッチャーからはみ出た色白い足は、小刻みに痙攣している。その映像は事の重大さを現しているのだと、嫌でも教えてくれる。
舌を噛み切らないように、口の中へタオルを押し込まれている。両手の拳は絶頂する瞬間のように固く結ばれている。パーを出せば勝利できる形になっている。ようく見ると親指はそれ以外の4本の指に包まれている。掛けられた薄茶色の毛布は、部屋内を外界から隠すカーテンと同色だ。ストレッチャーの車輪がここで壊れたら、この小刻みに震える体は、冷たく固い床に叩きつけられるだろう。
色々な考えが数秒の間に脳を徘徊する。その足跡を自分で後ろから掃除をする。綺麗になった床を、さっきとは違って柔らかい弾力のある床を、嫌がらせのようにまた汚していく。気づくと自分はストレッチャーの上で震えている嫁と同じように震えている。同じスピードで早歩きができなくなっていく。少しずつ、少しずつ距離を離されて、終いにはその姿を捉えられない距離まで離される。
死角を見ようとすれば、新たな死角が増える。それに伴って危険が高まる。
強い力で私は個室に引きずりこまれた。それは職員のみが活用するのであろう、更衣室だった。首裏で蜂に刺されたような痛みを感じた。現実と幻想と空欄に色分けされた棒グラフが、徘徊作業を終えた脳に入ってくる。
「ここはどこですか?」
「ここはあなたに潜んでいる疑念です」と言いなさい。
「私はどうなるんですか?」
「それはあなた次第です」と言いなさい。
「あの女性は、私の嫁はどうなってしまったんですか?」
「それは本人に聞きなさい」と嫁が言った。
「ん」
「うん。もう同じ生活には戻れないのよ」
「今日は何日だっけ?」
「今日は2011年の12月14日です」
医師は不敵な笑みを溢した。周りに立っている女性の医療関係者が、こう言った。
「今日の担当医って誰?」
「諸川先生でしょ」
「え、新しい人?」
「う~ん」
首から先についてる頭を380度くらい回して、右手首を強く掴んだ。ナースの格好をしている犯罪者が、ナースの右手首を掴んだ。
それを上の方からただただ見ていた。
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